ボーダレスの家

都心部における3階建狭小住宅を縦ログ構法によって実現しました。
縦ログ構法を採用することにより、準防火地域においても、内外木表しの住宅を作ることができます。また、パネル化することで、現場において短い工期で竣工することができました。

建物概要
用途:住宅
所在地:東京都豊島区
延床面積:62.91㎡(3階建)
構造:木造(縦ログ構法)
設計:はりゅうウッドスタジオ+セルマ・マシッチ
施工:はりゅうウッドスタジオ
総工費:2,000万台前半
竣工年:2018年
>設計 はりゅうウッドスタジオ

Photo by Shinkenchikusha

Photo by Shinkenchikusha   リビング・ダイニング。縦ログパネルは構造材がそのまま仕上げ材となるため内部はスギ材に囲まれている。キッチンのシンクは建て主であり設計者のセルマ氏が自ら制作したもの。

Photo by Shinkenchikusha   2階から1階のダイニングを見下ろす。床、壁、階段など主要な部分がすべて縦ログパネルでつくられる。スキップ状に繋がる一室空間を透過性のある布が柔らかく仕切る。

Photo by Shinkenchikusha  居室1から居室2を見る。2,3階は階段室を挟んで南北にそれぞれ1部屋ずつを配したシンプルな構成で、各部屋の機能は限定されていない。居室1と居室2のレベル差は1000㎜。

Photo by Shinkenchikusha  居室2。東側は建物が隣接しているため、南と西のみに窓を設けている。

Photo by Shinkenchikusha  3階の居室3(左)とサンルーム(右)。サンルームにはトップライトが開いている。

Photo by Shinkenchikusha  西側壁面。外壁は厚さ15㎜のスギ板。通りに面してリビングに開いた窓は幅1,650㎜(縦ログ11本分)、高さ2,230㎜で、腰壁の高さは700㎜。

Photo by Shinkenchikusha  南側の通りから見る。右に隣接するのは自転車で、この地域に住む人たちが行き来する。

Photo by Shinkenchikusha  南西側俯瞰の夕景。住宅や店舗が密集する都心の角地において、建物全体を覆うスギ材の外観と格子状に開けられた大きな窓が際立っている。

Photo by Shinkenchikusha

生きるための場所
都内の十字路に面する狭小角地に建つ住宅。共同設計者であるボスニア・ヘルツェゴビナ人建築家セルマ・マシッチの自邸である。
設計から施工業者選定、コスト調整を含め、完成まで与えられた工期が1年未満というタイトなスケジュールでプロジェクトが始まった。
パネル制作後の工程が簡易であること、また木を仕上げせずそのまま使いたいというセルマの要望などから150㎜角スギ材を使った縦ログ構法を選択し、狭小の敷地に最大限の木質スケルトン一室空間をつくり、スキップフロアを活かした構法とした。部分的に壁倍率確保のため縦ログパネルを2重にしたダブル縦ログ構法となっている。床、壁、階段などの主要な部位にすべて同一材料を使用した。縦ログパネル+スギ板外壁の仕様で準耐火構造の認定を取得しているため、鉄骨やコンクリート系のパネルなして準防火地域に耐える木造建築とすることができた。
この住宅では既存の工程を見直し、材料費は削減せず、工期短縮と作業工種の単純化による作業費削減とそれらに伴う経費削減を目指した。縦ログパネルの施工性のよさを活かし、その日に設置する分だけを工場から運ぶことで、狭い敷地での資材置き場の不足という問題にも有効である。パネル建て方から屋根までで1週間、コンクリート基礎工事期間を除くと40日で確認申請の完了検査に到達した。1階のリビング・ダイニングでは一部を設計活動の場とすることも想定され、人や車が多く行き来する道に対して大きな窓を設けている。
街角の交差点に、木質パネル打ち放しの住宅が加わり、街には新たな風景が生まれた。この協働設計を通じて、セルマが幼少期を過ごした戦時下のサラエボでの体験と、全国に分散した原発避難者が抱える葛藤が重なって見えた。
戦争体験や原発避難によって、これまで生きてきた場所と生活の場が分断される。ノスタルジーだけでなく、良くも悪くも、場所と時間と生活は思考の内面で繋がっている。平和な東京の、人びとが行き交う角地を好み、この敷地を決めたセルマにとって、ここは生きるための場所としての出発点となる。大きな窓を通して、住宅は通りや街へと繋がる。そしてその意識は故郷のサラエボにも繋がっていくのだろう。シンプルなスギ材の表情は、街角のさまざまな出来事を受け止めながら多様な変化に対応する。そして、敷地境界線も国境さえも意識しない風景の繋がりをつくりだす。

 

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